社会の仕組みに視野を 五感を使い体験
生活につながる仕掛け
「教育」が持続可能な開発にとって重要な意義を持っているということは、1992年地球サミットでの合意文書「アジェンダ21」にも明記されている(第36章)。また現在では、国連やユネスコのイニシアチブのもと、「持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」と題した取り組みが各国で進みつつある。
ドイツの環境教育については、この連載を通じて幾度となく取り上げてきた。今回はその最後を飾るものとして、環境情報センター(Umwelt InfoZentrum)の取り組みについて紹介したい。
市街地近く 屋上を緑化
同センターは、子供たちが来やすいようにとの配慮からエッカーンフェルデ市の市街地近くに位置しており、しかもかつてクラインガルテン(市民農園)だったという緑豊かな敷地に建っている。建物も、柱を中心に木材がふんだんに使われ、屋上も緑化されているなど環境学習施設として相応しいたたずまいだ。
土地も建物もエッカーンフェルデ市の所有だが、運営は市民団体UTS(環境・技術・社会)が委託を受けて行っている。運営方法には、環境の改善と社会・経済の発展とを結びつけるというUTSのミッションを垣間見ることができる。例えば、失業者がここで3カ月間屋上緑化や庭の手入れなどの技術を学び、その後の就業に役立ててもらうといった取り組みをセンターは実施している。
センター長のザビーネ・リーフ氏にまず案内されたのが、敷地内のハーブの花壇。ここでは、訪問者がさまざまな種類のハーブに自由に触れられる。建物内には、現在希少種となったりんごを実際に手にとって見られる展示もある。
変わり種としては、「虫のホテル」なるものがある。屋外に木箱を設置し、その中に試験管状のハチのすみかを用意する。箱のふたを開くと、子どもがハチの生活を間近で観察できるようになっているという仕掛けだ。
他には、子どもがパン焼きを体験できるよう、敷地内にパン焼き小屋を近く建設予定とのことだった。このように、このセンターでは、単に展示物を眺めたり施設の人の話を聞いたりするのではなく、五感を使って体験・学習するというコンセプトが徹底して貫かれている。
「虫のホテル」。蜂を間近で観察できるようになっている(エッカーンフェルデ市)
ハーブ染めで途上国学ぶ
花壇のハーブの中には昔から染料として利用されているものもあり、実際センターのイベントの中でも使われている。しかし単なる染め物体験で終わらないのが、そのイベントのポイント。染料と人類のかかわりの歴史、それに染料の栽培・輸出などを通じて発展途上国の人々の暮らしが自分たち先進国の人間の暮らしとどのようにかかわっているかといったことも、同時に学んでもらう。
このように「グローバルな課題を、ローカルレベルで解決する」というローカルアジェンダ21の理念を明示的に体現した「持続可能な開発のための教育」を日本で広めるにあたっては、今後は次の2点がますます問われることとなろう。
第一に、学んだことが単なる知識・体験に終わるのではなく、各人の日々の生活における実践・行動につながるよう仕掛けを工夫すること。第二に、環境教育を、例えば自然体験といったカテゴリーに閉じ込めてしまうのではなく、人間のライフスタイルや社会の仕組みといった視野も兼ね備えたものにすることである。
(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター・宮永健太郎)