世界遺産の鉱山跡 中世のままの街並み
住民、景観保全を選択
ドイツ北部にある美しい緑に囲まれたまちゴスラー。木組みの家並みが続く美しい景観とランメルスベルク鉱山は1992年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。ランメルスベルク鉱山は、1988年に閉山するまで、約千年にわたって銀の採掘を続けていたという世界でもめずらしい鉱山です。
約10世紀ものあいだ銀の採掘が続けられたランメルスベルク鉱山は、その姿のまま世界遺産に登録された
鉱物を運び出す動力は大きな水車で、人工貯水池をつくり、その水を利用していました。この水はハルツ山地の豊かな自然がもたらしたもので、ゴスラーの森や緑も恩恵を受けています。
採掘された銀はまちの経済を潤わせ、ハンザ同盟のまちとして、手工業が盛んな商業都市に発展しました。閉山後は、採掘場をそのままの姿で残し、ゴスラーの歴史を語る貴重な遺産となりました。その意味や成り立ちを、今度は観光資源としたのです。
滑っていくワイングラス
観光案内所では気軽に参加できる、歩いて旧市街地をめぐるツアーを実施していて、私たち一行も1人あたり6ユーロの2時間コースに参加しました。世界遺産のまちなみは、木組みとスレートの屋根や壁が特徴的な15世紀から16世紀に建てられた家々が連なる見事な景観です。
細い路地に美しい家並みが続く。人と自転車だけが通れる道は静かで落ち着いたたたずまい(ゴスラー市)
ガイドさんから「住民はみな自分たちの住むまちと建物、景観に誇りを持っている」と、教えてもらいました。表から見ると、傾いているとしか見えない建物も、家の中は改修されているそうですが、住民は「家の中でワイングラスが滑っていく」と、冗談を言って古さを自慢しあうのだそうです。1520年代に建てられた家は、今でも住居として立派に使われています。
まちの中心部マルクト広場にある市庁舎も15世紀に建てられたものです。庁舎内の部屋の木面の壁には、当時描かれた壁画がそのまま保存されており、市庁舎も保存しなければならない建築物として指定されています。
旧市街地には、自動車の入れない細い路地がいくつもあり、木組みの家並みが続きます。かつて豊富な水資源を利用した製粉などの水車小屋が多くあったというゴーゼ川には、花や緑の鉢植えが途切れることなく置かれ、今も住民が大事にしていることが伝わってきます。歩いていても飽きることがなく、まるでおとぎ話の中に迷い込んだような気分です。
未来への姿自分らの手で
ツアーは、フィールドミュージアム的発想で、地域の産業、歴史、文化を地域の人々の暮らしの中から感じられるように工夫されていました。「素晴らしい景観が現在あるのも住民が環境と景観を守ってきた成果だ」と、ゴスラー市のアジェンダ担当者のヴォルグガング・レプツィエン氏は話してくれました。
ヨーロッパでは、景観や建物、自然をそのまま保存すべき地区と、まちづくりのために新たに開発をする場所とは決して混在せず、明確に区分されています。ゴスラーも、旧市街地は昔のままですが、少し離れた通りには色や素材感、スカイラインへの配慮はなされながらもモダンなショッピングセンターの建物がありました。
500年以上の年月が流れても、美しい木組みの家々は大切に守り継がれている
都市景観の保全には、明確な未来のまちの姿と住民の合意が重要です。ゴスラーの人たちは、自分たちのまちの姿を価値あるものとして大切にし、自分たちのまちは自分たちで守っていくことを選択したのです。次回は、そんなゴスラーのまちでローカルアジェンダ21の活動をすすめる人々を紹介します。
(NPO法人環境市民理事、環境カウンセラー 下村委津子)