生き物に直接触れ、学ぶ 広大な敷地に家畜飼育
毛糸づくりも挑戦
ミュンスター市に滞在中、私たち一行は公共交通のグループチケットを活用した。5人組の1日乗車券は15ユーロで市内のどこへでも行け、何度でも乗り降りができる安くて便利なチケットだ。
その1日乗車券を使って、ミュンスター中央駅からバスに乗って30分。さらに、菜の花畑や牧場が広がるのどかな風景の中を歩くこと20分、めざす農業体験型環境教育施設エムズホフはあった。ここは、市のローカル・アジェンダの考えに基づいて作られた施設で、8ヘクタールという広大な敷地に家畜小屋や牧場、農場などがある。専従スタッフは2人だが、1人分の給与をワークシェアしている。
年間およそ5,000人の子どもたちがエムズホフのプログラムに参加する(エムズホフ提供)
運営は主に参加費で
行政から年間26,000ユーロの助成はあるものの、運営は体験学習の参加費で主にまかなわれ、インターンシップやボランティアによって支えられている。施設には、幼稚園や小学校から大勢の子どもたちが体験授業にやってくる。ドイツでも、子どもたちの自然体験の不足は心配されているそうだ。
スタッフのウタ・ヴィッヘルハウスさんにまず案内されたのは、鶏、ウサギ、豚、羊などの家畜の飼料部屋。ここで、子どもたちは大麦やライ麦、小麦を実際に触り、見比べて、大きさや色が違うことに気づく。食べてみるとドイツで普通に食べられているライ麦パンと同じ味だ。体験学習をする子どもたちも「朝食と同じ味」がすることに気づくのだという。
鶏小屋に入ると、清潔で窓がある。上方にある棚で鶏は眠る。農場は「Bioland認証注1」」を受けており、家畜の飼育環境や飼料も規定されている。一羽を抱いてみると、温かい。くちばしや足がはっきり見えて、羽の構造までも手から伝わってくる。こんな観察や体感もまた、子どもたちにとって大切な経験となる。
珍しい種類の豚、ウール豚も飼育されていて、子どもたちは実際に触ってブラッシングするなどの世話をする。豚が草やどんぐりなど、何を食べているのかも知る。
牧場には、絶滅危惧(きぐ)種の羊が放牧されている。ここの羊のしっぽはみな長い。羊のしっぽは本来長いのだが、しっぽから菌が入り病気になるからと、よそではしっぽを短く切るらしい。子どもたちは、鶏やウサギ、豚、羊の自然に近い姿を見たり触れあったりすることで生き物について考え学ぶ機会になる。
この地域の伝統的な毛糸づくりにも挑戦する。羊の毛を刈ったあと足踏みの毛糸紡ぎ機をつかって自分で毛糸をつくってみるのだ。他にも春から秋にかけては有機農業の作業や収穫を体験する学習が行われている。
鶏を観察したり、エサをやるなど触れあうことで生き物について学習する
広々とした牧場。ビオランドの認証を受けた農場は、飼育環境や飼料まで細かな規定がある
教師向けにプログラムも
また、この施設では6週間にわたる長期の教師向け専門教育プログラムも実施されている。2週間ずつ3回に分けてのプログラムだ。教師にも学ぶ機会が十分にあるというのは、子どもたちへ本質的な環境学習を行ううえで非常に重要だ。プログラムを通して、子どもも大人も地域の自然、農業、環境、社会、ものづくりが自分たちの暮らしとどのように関係しているのかを学ぶ。このような環境学習の場づくりには、地域、NGO、行政の協力が欠かせない。
(NPO法人環境市民理事、環境カウンセラー 下村委津子)
注1)Bioland(ビオランド、ドイツ有機栽培協会)
有機農業に取り組んでいる団体で、1971年に設立。3,700以上の生産者が、この協会の公認を受けて有機農業に取り組んでいる。