第10回 古い建物も省エネルギー化

熱の逃げ具合を診断 コンテストで表彰
積極的な改修 促す仕組み

ミュンスター市でも新築の建築物の省エネ化は進んでいるが、問題は既存の古い建物だ。ミュンスターの建築物のうち、70%が1980年以前に建てられたもので、年間143,000トンのCO2を排出している。市では古い住宅の省エネルギー化をすすめるため、さまざまな施策を実施している。

まず、サーモグラフィーを使って住宅のどこから熱が逃げているのかを診断。自分が住んでいる家の窓やドア、壁から熱がどんどん逃げているのを目の当たりにすれば、何とかしたいと考えるのが人情だ。

基準満たせば補助金受給

そのうえ、住宅の省エネ改修には補助金がある。改修後、エネルギー診断員に一定の基準を満たしていると認定されれば「熱パス」が発行され、補助金が受けられる仕組みだ。改修費も暖房費用も軽減するとなれば、省エネ改修への意識はがぜん高まる。

改修によって、エネルギー使用量が灯油換算で1平方メートル当たり24リットルから7リットルと1/4に削減できた例もある。エネルギーも財布も得するという市民にとってわかりやすい仕組みだ。この補助金制度を利用して、すでに1,100軒の住宅が省エネ改修されている。

省エネ改修中の家を市民にアピールし広報することも忘れない。改修でCO2が削減できるというメッセージが書かれた工事用シートが、目立つようにかけられる。少しでも多くの市民に関心を持ってもらおうというアイデアだ。別に、市民が気軽に参加でき省エネ改修に関する情報が得られるシンポジウムも開催されている。


住宅の省エネ改修の工事現場に掲げられたCO2削減をアピールするシート(ミュンスター市)

思わず参加してみたくなるようなユニークな取り組みもある。毎年実施されている住宅コンテストでは、省エネが最も優れていた住宅・建物が選ばれ、優れた建物には「緑の番地」と呼ばれるプレートが授与される。プレートは家につけることができるので、どの家が省エネに優れた建物なのかを誰でも知ることができる。また、建築年数、建物のタイプなどカテゴリーごとに分けられ、改修方法などがパンフレットで紹介される。

他にも、住宅の省エネ化には建築に携わる人たちへの研修も重要と考え、大工さんたちへの研修も市と手工業組合が一緒になって実施している。市は、必要な人たちへ必要な情報を効果的に提供することでも温暖化防止をすすめているのだ。


ドイツで普及している、建物のエネルギー消費量がわかる「エネルギーパス」


住宅の省エネコンテストで「緑の番地」を獲得した家に付けられるプレート

雇用確保など波及効果も

ミュンスター市では、このような住宅の省エネ改修実施により、この10年で8,200トンのCO2が削減され、同時に雇用確保につながるなど、一つの施策で複数の効果を得ることに成功している。

「熱パス」はミュンスター独自のものだが、2008年にはドイツ全土で、建物のエネルギー消費量がわかる「エネルギーパス」を持つことが義務づけられた。近い将来、EU全体でもエネルギー消費量などを示したこのエネルギーパスが住宅の購買や賃貸契約の際に提示することが必要となる。エネルギー改修によって建物の資産価値を高めるこの制度が本格実施されれば、EUの住宅の省エネ化は一気に進むだろう。

(NPO法人環境市民理事 下村委津子)

独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて製作しました
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