総合1位の水俣市のどこが優れていたのか
環境ネットワークくまもと 宮北隆志
今年、2006年は、公害の原点としての「水俣」にとって大きな節目となる年です。「水俣病」の教訓とは何か、また、めざすべき「環境モデル都 市」とは何かが、今、あらためて問われています。そのような中で、水俣市が昨年に引き続いて総合第1位を獲得したことの意味はきわめて大きいと思います。 また、持続可能な地域社会をつくるという私たち環境首都コンテスト全国ネットワークの思いを受け止め、第1回から5年連続での環境首都コンテストに参加し ていただいたことを心強く感じています。しかし、「環境首都」の称号を獲得し、持続可能な水俣を実現していくためには、市民・民間事業者・行政など多様な 主体の協働によるさらなる取り組みが必要です。
総合的な政策推進体制
第一に、「環境モデル都市」をめざす取り組みが環境関連の部局(福祉環境部環境対策課)にとどまらず、企画課、商工観光課、農林水産課、教育委員 会など、他の部局との積極的な連携によって、きわめて多面的になされていることを挙げたいと思います。水俣市は、環境マネジメントシステムの構築をめざし て、1999年に熊本県下の自治体では最初に ISO14001の認証を取得し、2004年以降は市民による監査に基づく自己宣言方式へとシステムを深化させていますが、それにとどまることなく、家庭 版(1999年)、学校版(2001年)、保育園・幼稚園版(2001年)、旅館・ホテル版(2002年)、畜産版(2004年)と、水俣独自の環境 ISOの仕組みを生み出し、市職員、市民、児童・生徒などの環境意識の向上と環境負荷の削減に取り組むためのシステムを多面的に構築しています。
継続的に見直し、広げる
第二に、継続的な取り組みの見直し・深化と、その面的な広がりという観点から注目されるのが、「元気村づくり条例」と「ごみ分別・リユース・リサイクル」の取り組みです。「水俣再生を環境から始めるためには、水俣の海・山・川を守り伝え、自然と共に生きる暮らしづくりを地区全員の合意のもとにすすめる」という理念に基づいて、1996年にスタートした「地区環境協定制度」 を、生活文化の向上という視点から深化させたものが、「水俣市元気村づくり条例」(2001年)です。「豊かなむらづくり」、「風格のある村の佇まいづく り」、「交流の促進」という三つの目的が条例の第1条に明示されています。このユニークな条例に基づき、地区の「生活学芸員」と「生活職人」によって運営 されているのが「村丸ごと生活博物館」 です。頭石地区(約40世帯、140名、高齢化率27%)が2002年8月に最初に指定され、昨年、2005年2月には、久木野地区(約100世帯、 220名、高齢化率50%)・大川地区(約170世帯、440名、高齢化率40%)が続いて指定されています。この取り組みの成果は、「親戚しか行かな かった村に日本や世界のあちこちから人がやってくるようになった」、「自分たちの生活文化を調べてあらためて自分たちの豊かさに気がついた」、「村が化粧 し始めた」などの言葉に表されています。
頭石村丸ごと生活博物館
一方、2度にわたる小型ガスボンベの爆発による焼却炉の損傷を直接的な契機として、1993年から始まった水俣方式のごみ分別の取り組みにおいて も、その時点で最善の再生利用のあり方を追求するという視点から、継続的な分類項目の見直しがなされています。市内で約300のステーションで展開されて いるこの取り組みは、地域の学校教育との連携も模索されています。2002年からは、生ゴミの堆肥化などにも取り組み、埋め立て最終処分場の残余年数の大 幅な延長を実現しています。また、エコタウンの田中商店(エコボみなまた)との連携で、2003年以降、南九州における900ml茶びん(「Rびん」)の統一リユースモデル事業にも意欲的に取り組んでいます。

回収された900mlのRびん(水俣エコタウン田中商店)
企業の拡大生産者責任を明確に意識した「Rびん」の取り組みは、リサイクル社会からリユース社会への転換を促すものとして評価され、県レベルでの新たな市民運動(「Rびんを広めよう会」・「Rびんで飲もう会」)の展開につながっています。
人とネットワークの存在
第三に、行政職員、市民グループ、地元企業からの様々な提案を、関係者が互いにしっかりと受け止め、その提案を活かし、実行することができる人と ネットワークの存在を挙げることができます。 1998年に誕生した「環境マイスター(現在26名)」、地場の大手4スーパーとの食品トレイの廃止協定の締結を実現した「ごみ減量女性連絡会議」、「水 の経絡図」や「水俣のお宝大辞典(地域人材マップ集)」を作り上げた「寄ろ会みなまた」、さらには「エコタウン協議会」や「ふれあい活動員(社会福祉協議 会)」など多様な市民グループ/NPO・民間事業者の存在とその活動が、行政の施策展開とがっちりと組み合わさっているところが水俣の強みと考えられま す。
今年で4年目を迎える「食育パートナーシップ事業(主管:熊本県芦北地域振興局)」も、市(保健センター、農林水産課、教育委員会)、保育園・幼 稚園、小学校、栄養士会、食生活改善推進員、老人会、PTA、生産農家、漁業師会、NPO法人水俣教育旅行プラニング、久木野愛林館、グリーンスポーツみ なまた、熊本学園大学水俣学研究センターなど連携のもと大きな成果を挙げつつあります。

食育ワークショップの成果(久木野愛林館)
協働で積み上げた歴史の存在
最後に、水俣市の取り組みは、「ごみ拾い」や、「ポイ捨て禁止」、「節電・節水」、「リサイクル」などに止まることなく、企業の「拡大生産者責 任」を明確に意識し、地域の生活に根ざした、また人と自然とのつながりを大切に考えた「環境負荷削減の取り組み」と「生活文化を育む取り組み」が、市民・ 民間事業者・行政の協働で積み上げられてきたことを確認しておきたいと思います。また、水俣病被害者・家族、支援者、市民、事業者、行政職員がそれぞれの 立場で、長年にわたって「水俣病・水俣病事件」に向き合い、自らの暮らしのあり方や生き方、さらには、社会のあり方を問い続けてきた歴史が、昨年に続く総 合第1位の受賞と、数多くの先進事例の蓄積につながっているものと考えます。
第5回コンテストにおける水俣市の得点状況
総合得点:606点(過去最高)
得点率70 %以上:(B)EMS構築、(G)パートナーシップ、(I)自然環境保全、
(J)健全な水循環
得点率50%〜70%:(A)アジェンダ・基本計画、(C)情報公開、(E)自治体交流、
(H)環境学習、(K)景観形成、(O)環境産業推進
北九州はなぜ1位になりえたのか
環境首都コンテスト全国ネットワーク主幹事団体
環境市民 代表理事 すぎ本 育生

表彰式の様子(2007年3月30日 北九州市内にて)
2006年度の環境首都コンテスト第1位は、第1回以来5年ぶりの参加された北九州市になりました。北九州市の総得点は、767点(1020点満 点)と非常に高いものがあります。また、すべての質問分野で6割以上の得点をあげるという、施策展開において弱点が見当たらない結果となっています。
北九州市がこのように高い評価となった主要因としては、従来から続けてきた公害の克服、環境産業の育成に加えて、この5年間ほどに総合的な環境行政の仕組みづくりと、住民参加、そして多様な施策展開を行ってきたことにあります。
環境首都づくりに取り組むシステム
現在、北九州市の環境政策の基本にあるのが「世界の環境首都」をめざしてつくられた総合的な行政システムです。市では、環境首都を「持続可能な社会」として定義し、市民とともに「グランド・デザイン」をつくりました。その策定のため2003年には、300回以上に及ぶ市民集会、企業研修会、フォーラムなどを開催し、意見や提案を1,000件以上集めました。そして2004年には市民、企業等からなる「環境首都創造会議」でグランド・デザインを策定しました。この会議は、市の諮問機関ではなく多様な主体の合議機関として運営したということです。
グランド・デザインは、そのタイトルに「人と地球、そして未来の世代への北九州市民からの約束」とあるように行政計画ではなく、地域社会の合意計画という位置づけになっています。デザインには持続可能な社会づくりに必要な三つの分野(社会、環境、経済)の柱をたて、「北九州市環境行動10原則」を定め、250のプロジェクトを掲げています。
すでに、住民参加型の様々なキャンペーンや、自然エネルギー活用推進、ごみの削減、環境教育、自然環境保全、国際環境交流事業等を展開していま す。これらの事業は、「環境首都予算」としてまとめられ、2006年度は207事業、約116億円になっています。このような政策を統合的に進めるため に、環境局に環境首都推進室を設置しています。そして各局の事業調整を行うため部長級の専任者を置き、また関係各課長を集めた環境首都創造会議事務局部会を設置し、予算化や施策推進の調整を行っています。
まちの将来像と目標を明確化し、戦略的な施策展開が可能な組織づくりと予算による裏打ちは、環境首都づくりにとって必要不可欠です。北九州市はこの課題にきっちりと取り組んできたと言えるでしょう。
進んだ住民参加
大都市は、一般的に住民参加が不得意だと言われます。100万都市ともなれば、人口規模の小さい自治体に比べて取り組みが難しくなる傾向があるで しょう。北九州市も、従来はそのような批判が多くありました。ただ、この数年間ほどで、環境行政に関しては、かなり住民参加が進んだと考えられます。例え ば、「エコライフステージ」という環境活動のキャンペーン事業は、2005年度には2か月にわたって54の事業が実施され、企画運営に213団体、60企業5,706人が加わり、参加した市民が述べ317,074人にもなっています。
北九州市は自治体としては珍しく、自然環境保全基本計画を策定していますが、その推進と進行管理のためのパートナーシップ組織として「自然ネット」 をつくっています。自然ネットには24の環境団体が参加し、その活動の中心を担っています。また、自然環境の写真データベースを構築するため、市民が気軽 に調査に参加できる自然発見というテーマのフォトコンテストを開催しています。その結果、市民から市内で見られる生き物や風景など、1,000点にも及ぶ 写真が寄せられました。
北九州市の住民参加は、自治基本条例の制定、住民からの協働事業提案制度の制定など、まだまだより広くより深くしていくことが求められています。が、この数年間の住民参加の具体的推進が、北九州市が第1位になった一つの要因であることは間違いありません。
アジアの地域社会と環境改善を具体化
北九州市は、アジアの地域社会と環境国際交流を盛んに行っています。例えば、インドネシアのスラバヤ市では、廃棄物埋立地に投棄される生ごみから 発生するメタンガスの発生抑制を図るため、地域に根付く技術として生ごみ堆肥化技術を開発し、普及を行っています。現地のNGO、コミュニティ、行政との 協働によって、20世帯から始めたモデル事業が8,000世帯にまで拡大し、家庭からの生ごみ発生量が大幅に減少しました。

スラバヤ市での活動の様子
フィリピンのセブでは、大気汚染モニタリングの技術指導、住民が参加した河川清掃への支援、水環境改善のための小型生活排水処理施設建設への技術 支援などを行ってきました。その成果もあり、市民、NGO、企業、行政などが連携して「メトロセブ」環境協議会を設立し、河川環境改善などの具体的な取り 組みを始まっています。市ではこのような交流を実施するための組織として、環境局環境国際協力室も設けています。
さらに環境首都に向けて
北九州市は、施策展開においてかなり環境首都に近づいています。今後はその施策効果を高めていくとともに、自動車に依存しない交通システムの実現や、より広範囲で大規模な自然エネルギー導入、住民参画の徹底などに積極的に取り組まれることを望みます。


